人文研究見聞録:鞍馬の火祭 [京都府]

由岐神社の鞍馬の火祭2015に参加してきたので、その様子をレポートしたいと思います。

概要

鞍馬の火祭とは?


人文研究見聞録:鞍馬の火祭 [京都府]

鞍馬の火祭(くらまのひまつり)とは由岐神社の例祭の一つであり、今宮神社のやすらい祭広隆寺の牛祭と併せて京都三大奇祭の一つに数えられている祭です。

鞍馬の火祭の起源は、元々御所に祀られていた由岐神社が鞍馬山に遷宮することになった際、鴨川に生えていた葦で松明を造って道中に篝火を焚き、神道具を先頭に10町(1km)ほどの行列を成して遷宮の儀式を行ったこと だとされています。

この儀式の様子に感激した鞍馬の住人は、この歴史と由岐神社の霊験を後世に伝えるために火祭りを始め、これが鞍馬の火祭の起源となったそうです。

現在の鞍馬の火祭は毎年10月22日に夜通し(18:00~翌2:00)で行われており、多くの見物客を集めています。

由岐神社とは?


人文研究見聞録:鞍馬の火祭 [京都府]

由岐神社(ゆきじんじゃ)とは、京都市左京区鞍馬本町にある神社であり、主祭神に由岐大明神(オオナムチとスクナヒコナ)を祀り、相殿に八所大明神を祀っています。

なお、この由岐大明神は元は御所に祀られていたとされ、天慶元年(938年)に都で大地震が起き、また翌年には平将門の乱(天慶の乱)が起こったため、世情の不安を拭うために朱雀天皇の詔によって、天慶3年(940年)9月9日に御所の北方に当たる鞍馬の地に遷宮して、天下泰平と万民幸福を祈念したことに始まるとされています。

なお、現在は鞍馬寺の鎮守社として寺の境内に鎮座しているため、参拝する際には鞍馬寺の入山料(300円)が必要になります(鞍馬駅付近にある御旅所の入場は無料)。


参加レポート

鞍馬の火祭のタイムスケジュール


人文研究見聞録:鞍馬の火祭 [京都府]

タイムスケジュールは以下の通りです。

タイムスケジュール一覧


・15:00~ 鞍馬街道の車両の通行止めが開始される(翌13:00頃まで)
 → 由岐神社内で火祭のマップが配布される
・16:30~ 鞍馬駅周辺の交通規制が開始される(順路に歩き続けることを余儀なくされる)
 → 御旅所や鞍馬温泉付近では留まることは可能である(鞍馬温泉周辺には出店もある)
・18:00~ 「神事にまいらっしゃれ」という神事開始の合図により、各所の松明に点火され始める
 → 最初は松明を持って「サイレイヤ、サイリョウ(祭礼や、祭礼)」のかけ声と共に集落内を練り歩く
 → そして、「仲間」と呼ばれる御旅所へ向かう
 → 御旅所では火祭の映像が上映される(おそらく録画DVD)
・20:00~ 大松明が鞍馬寺山門前に向かい始める
 → 由岐神社では、八所大明神、由岐大明神の順序で神社から神輿が下る
 → 神輿が降りる際、ふんどし姿の男性が担ぎ棒にぶら下がる元服の儀式「チョッペンの儀」が行われる
 → 神輿の綱を牽くと安産になると伝えられているため、若い女性の参加者が多いという
 → 見物客数が増えてくるため、警察による警備が厳しくなってくる
・21:00~ 祭が盛り上がってくる時間帯であり、見物客数もピークに達する
 → 神輿が集落内を練り歩き、御旅所付近では大松明がかかげられる
 → 鞍馬駅前は帰る客と来る客が入り混じって大変な混雑になる(自分は21:30まで参加)
 → 神輿が集落内を練り歩くと、御旅所に安置される
 → 境内で神楽が奉納され、神楽奉納の後に神楽松明が境内をまわる(24時終了)
・翌2:00 神輿が御旅所から神社に戻る「還幸祭」が行われ、全ての祭事が終了する

鞍馬の火祭の様子


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当日は貴船神社への参拝を併せていたために、鞍馬駅には16:00頃に到着しました。この時には既に駅前に人が集まって来ており、祭の開始に合わせて食事をとっている人が多く見受けられます。

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鞍馬駅前
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17:00頃の様子

16:30頃駅前の交通規制が開始されるため、鞍馬駅周辺からは退散する羽目になります。また、鞍馬寺方面への移動は規制されるため、この時点での由岐神社参拝は至難です。

警察の誘導に従って順路を進んでいくと、やがて鞍馬温泉方面の集落へ抜けることが出来ます。祭の開始まで鞍馬温泉前は空いているため、この辺りで休憩しておくのが無難と言えるでしょう。

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鞍馬温泉

また、この頃になると鞍馬周辺では食事を摂ることが困難になりますので、食事を摂りたい場合は祭に向かう前に済ませておく方が無難です(駅前の土産屋か、温泉前の出店ぐらいしかない)。

なお、祭の開始前には火の点く前の松明(大松明)エジ(篝火)、また集落の各戸の奉納物(着物・甲冑ほか)などを見学することができ、火伏の御札なども販売されています。

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大松明
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エジ(篝火)
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着物
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甲冑

18:00頃、各所の松明エジ(篝火)点火され、鞍馬の火祭が開始されます。この頃より、見物客は順路の巡行を始め、歩き続けて火祭を見物することになります。

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点火された大松明
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点火されたエジ(篝火)

なお、この時間帯から順路が混み合うことになりますが、特別な見どころは無く、歩きながらの見物になりますので、祭の様子を撮影することは困難(祭催行の迷惑)となります。

しかし、御旅所付近は空いており、かつ、この辺りで子供が小松明を持って「サイレイヤ、サイリョウ(祭礼や、祭礼)」のかけ声と共に練り歩き始めるので、御旅所にて祭りを見物することが無難であろうと思われます。

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子どもと小松明1
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子どもと小松明2

なお、御旅所では篝火が焚かれると共に火祭の映像も流され始めるので、それなりに有意義な時間を過ごすことが出来ます。

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御旅所
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御旅所のモニター

20:00頃、由岐神社から神輿が降りてくるため、火祭が盛り上がり始めます。この頃から見物客が非常に増え始め、見物客の巡行も滞り始めます(2015年度はコース1周当たり、約1時間半程度かかった)。なお、火から離れると途端に寒さが身に染みるため、寒さに対する注意が必要です。

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20:00頃の混み具合
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電車の人混みの様子

しかし、神輿の担ぎ棒にふんどし姿の男性がにぶら下がる元服の儀式「チョッペンの儀」を行う様子が見られるなど、火祭自体の盛り上がりが高まってくる時間帯なので、この頃が祭の見どころとなっているものと思われます。

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神輿
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チョッペンの儀

21:00頃、火祭の盛り上がりは高まるものの、祭の流れはマンネリ化してくる上に、駅前から押し寄せる新たな見物客の流れが祭見物の心を折り始めます。そのため、自分は結局21:30頃に帰ることにしました。

なお、祭のタイムスケジュールから察するに、由岐神社における神楽奉納や神楽松明などは見どころがあるものと思われます。しかし、日帰りの見物の場合は最後まで見ることが難しく、帰路が混まない時間に帰ることが賢明であるとも言えます。

ちなみに、21:30頃には鞍馬駅前は大変混雑しているため、貴船口駅まで歩いて帰りました。この間 約25分程度かかりますが、道は大変空いており、貴船口駅から帰る客も大変少なかったです(この時間帯なら安全に帰れる)。

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貴船口までの様子

なお、「鞍馬の火祭」の様子は こちらの動画にまとめています。


鞍馬の火祭の注意点


鞍馬の火祭に参加する際の注意点対策をまとめました。

見学における注意点まとめ


・当日は午後から人が集まり始めるため、鞍馬寺・由岐神社の参拝も困難になると思われる
・当日は人混みのためにトイレが混み合う(駅前のトイレは使用不可になり、仮設トイレが設置される)
・当日は鞍馬周辺で食事できる店は ほとんどない(鞍馬温泉前の出店程度)
・家屋と炎程度の光源しかないため、撮影は難しい
・そもそも順路を歩き続けながらの見学となるため、撮影は禁止とされる
・見物客が異常に多いため、圧迫事故の危険を常に伴う(警官の指示ミスもあった)
・好きな時に列を外れて帰ることは不可能(順路を計算して抜けるタイミングを計る必要がある)
・順路の約半分は祭と全く関係の無いコースとなっており、そこで30分以上の立ち往生を食らうこともある
・順路を周回する度に疲れが溜まる(3周程度廻ってみたが、結構疲れた)
・足腰の悪い方、冷えに弱い方、体力に自信の無い方には向かない(日帰りで子連れは正気の沙汰とは思えない)
・単独行動推奨(警察は見物客の巡行を優先するため、コース内で待ち合わせることは基本的に不可能)

見学における対策


・参加する前に食事を済ませるか、軽食を用意しておく(できれば先に食べておく方が良い)
・トイレの回数を抑えるために、水分の過剰摂取は控える
・防寒対策を怠らないこと(一段階厚めの防寒着およびマフラーなどを用意する)
・撮影には期待しない(カメラ固定での撮影は基本的に不可能なため)
・金銭と時間に余裕のある場合は、鞍馬に宿を取って参加する(当日の鞍馬温泉の宿泊予約は抽選となるらしい)
・火祭が盛り上がる直前19:30頃までに入り、見どころの時間になるまで御旅所でやり過ごす
・タイムスケジュールに沿って、狙い目の時間帯を抑えておく(周回する回数を減らすため)
・帰宅ラッシュを鑑みて、気が済んだらすぐに帰れるように心がけておく
・複数人で訪れる場合は、予め帰宅時間を決めておき、携帯電話などの連絡手段を設けておく
・暗闇対策に小型の懐中電灯を準備しておく(100円ショップにあるものでよい)

雑記


今回 鞍馬の火祭に参加してみて、火祭を行う地元民と見物客の間には かなりの温度差があるように感じました。

というのも、この火祭は鞍馬に由岐大明神が遷宮した歴史を伝えるために始まった祭とされていることから、本来は他所者に見せるための祭では無かったように思います。そのため、両者の間は明確に綱で仕切られ、互いに相まみえないことを前提とした形で祭が行われており、見物客はかえって邪魔なのではないかという感じすらありました。

また、やはり珍しい祭りですので、自分を含める多くの見物客は撮影のチャンスを窺うように見物しており、火祭の本来の意義を理解して見物しようとする人は少ないように思います。故に、興味本位で見に行くのも一つの経験ですが、火祭に対する知識を前もって留めておいてから参加し、見どころをしっかり抑えて見る方が良いのではないかと思いました。

なお、学生の場合はサポートスタッフ(ボランティア)として参加することが可能らしく、主催者側で参加すれば、火祭に対する理解が一層深まるのではないかと思います。

料金: 無料
住所: 京都府京都市左京区鞍馬(マップ
日時: 毎年10月22日(18:00~翌2:00)
交通: 鞍馬駅すぐ

公式サイト: http://www.yukijinjya.jp/himaturi.html
matapon
著者: matapon Twitter
「日本神話」を研究しながら日本全国を旅しています。旅先で発見した文化や歴史にまつわる情報をブログ記事まとめて紹介していきたいと思っています。少しでも読者の方々の参考になれば幸いです。