人文研究見聞録:二見興玉神社 [三重県]

三重県伊勢市二見町にある二見興玉神社(ふたみおきたまじんじゃ)です。

磯合にある夫婦岩で有名な神社ですが、その先の沖に沈む神石「興玉神石」を拝することを目的とした神社とされます。

また、神使の蛙(二見蛙)も有名であり、境内のあらゆる所に蛙像が点在するという珍しい神社となっています。

そのため、三重県でも人気のある観光スポットであり、県内で2番目に参拝者の多い神社なんだそうです。


神社概要

由緒

人文研究見聞録:二見興玉神社 [三重県]

由緒書によれば、第11代垂仁天皇の御代、天照大神の御杖代である倭姫命(ヤマトヒメ)が二見浦を訪れ、猿田彦大神が出現したという「興玉神石(おきたましんせき)」を敬拝し、立石(夫婦岩)に注連縄を張って遥拝所を設けたことに始まるとされます。

その後、天平年間(729~748年)僧・行基興玉神(猿田彦大神)の本地垂迹として江寺(えでら)を創建し、その境内に興玉社を建てて鎮守としたとされ、明治43年(1910年)に猿田彦大神を祀る興玉社と宇迦御魂大神を祀る三宮神社を合祀して「二見興玉神社」に改称したとされています。

なお、三宮神社は元は境内の「天の岩屋」の中に祀られていたとされ、文禄年間(1593~1596年)に岩屋の外に移されたものが合祀されたそうです(古い参詣記には「三狐(さんぐ)神社」などと記されるとも)。

※興玉神(おきたまのかみ):内宮の正宮の守護神で、猿田彦大神またはその子孫である大田命の別名であるとされる(当社では猿田彦大神の別名とされる)

祭神

二見興玉神社の祭神は以下の通りです。

・猿田彦大神(サルタヒコ):天孫降臨の際、天孫を導いたとされる伊勢の国津神(興玉神とも呼ばれる)
・宇迦御魂大神(ウカノミタマ):稲荷神(御食津神とも呼ばれ、伊勢周辺では豊受大神と同神とされる)

龍宮社

人文研究見聞録:二見興玉神社 [三重県]

二見興玉神社の境内社・龍宮社(りゅうぐうしゃ)です。

夫婦岩から二見シーパラダイス方面へ向かう途中にあり、祭神に綿津見大神を祀っています。

また、毎年旧暦5月15日(6月下旬)に龍宮社例祭が行われ、それに併せて郷中施神事(ごじゅうせしんじ)が行われます。

その神事では村内安穂と海上安全を祈願して、小船に「きゅうり・みる・まつな」の供物を乗せて海に流すそうです。

祭神

・綿津見大神(ワタツミ):『記紀』に登場する海の神(龍神とされることもある)

関連知識

猿田彦大神とは?

人文研究見聞録:二見興玉神社 [三重県]

猿田彦大神(サルタヒコ)とは『記紀』の天孫降臨の段で初めて登場する神であり、高天原から天降ってきた天孫・瓊瓊杵尊(ニニギ)の前に現れて、その行先を先導した国津神とされています。

また、垂仁天皇の時代に倭姫命(ヤマトヒメ)が天照大神の鎮座するに相応しい地を求めて伊勢を巡幸していた際、サルタヒコが神徳を示して五十鈴川の川上に導いたとも云われています(「伊勢にまつわる伝説・伝承」参照)。

そのため、「道案内の神(交通安全の神とも)」として知られており、全国津々浦々で祀られています。

なお、サルタヒコの特徴については、『古事記』では「天の八衢(あめのやちまた)に居て、上は高天原から下は葦原中国まで照らす神」と記され、自ら輝きを放つ神として、天津神にも一目置かれるほどの存在感を誇る国津神だったと記されています。

また、『日本書紀』においては、本文では省かれているものの、異伝にて「鼻の長さが七咫(指七本分)、背の高さは七尺(約2.12メートル)以上と大きく、口の端は明るく光り、目は八咫鏡(やたのかがみ)のように光り輝いている。天孫は御供の神を遣わして その神の素性を明かそうとしたが、どの神も目を合わすのを怖れて尋ねられなかった。」と記され、いわゆる天狗のような容姿の恐ろしい神であったと記されています。

さらに『古事記』では天孫降臨の後、サルタヒコが伊勢の海で漁をしている最中に比良夫貝(ヒラブガイ)に足を挟まれて「溺れた」とあり、「溺死した」とは明記されませんが、一説にはサルタヒコは溺死した後に再び甦ったとされ、それが「黄泉の国より還る」転じて「甦る(よみがえる)」となったとも云われています。

そのためか、二見興玉神社では「猿田彦大神は、魂を導き甦らせる御神威により『甦りの神』と称され、別名『興玉の神』とも称えられております」と説明されています(公式HPより)。

加えて、伊勢でサルタヒコの神使が「カエル」とされるのは、上記の説の「甦る」に準えて「黄泉カエル」とされたためとも云われているそうです(ただし、数ある説の一説)。

夫婦岩

人文研究見聞録:二見興玉神社 [三重県]

二見興玉神社にある夫婦岩(めおといわ)です。

この岩は、「日の大神(太陽)」と この先700mほど沖の海中にある「興玉神石」の門石(鳥居)の役目をしているとされています。しかし、興玉神石は安政の大地震で起こった津波の影響で沈没してしまったそうです。

また、大きい岩は「男岩」または「立石」と呼ばれ、小さい岩は「女岩」または「根尻岩」と呼ばれるとされています。この両岩を「夫婦岩」と呼ぶようになったのは明治以降であり、それまでは「立石」と呼ばれていたそうです。

なお、両岩を繋ぐように張られた大注連縄は「神界と俗界の結界」を意味しているとされ、5月5日、9月5日、12月下旬の年3回行われる夫婦岩大注連縄張神事によって張り替えられるとされています。

また、夏至には両岩の中央から太陽が昇ることから夏至祭が行われ、白衣を来て海水に身を浸し、沐浴しながら日輪を拝むという神事が行われるそうです。

そのほか、4月~8月の間は両岩の中央から朝日が昇り、冬には中央から満月が昇ると言われています。

詳しくはこちらの記事を参照:【二見浦の立石(夫婦岩)】

天の岩屋

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二見興玉神社の境内にある天の岩戸(あまのいわや)です。

参道の途中にある岩窟を指し、古くは「石神(しゃくじん)」と称された宇迦乃御霊大神(豊受大神とも)を祀った三宮神社の遺跡であるとされています(現在合祀された三宮神社の旧鎮座地)。

なお、この岩窟は「日の出に対する日の入り」を表し、天照大神と豊受大神の関係に通じると伝えられているそうです。

二見蛙

人文研究見聞録:二見興玉神社 [三重県]

二見興玉神社の祭神・猿田彦大神の神使はカエルであり、「二見蛙(ふたみかえる)」と通称されています。

蛙が神使とされるようになった由縁として、夫婦岩の東方に見える飛島に伝わる白蛇伝承、昇る朝日を龍神に喩えた信仰、猿田彦大神の甦りの神話にちなむなど、諸説あるとされますが、具体的には分かっていないそうです。

現在では「日本神話で猿田彦大神が道案内をした」ということと「無事帰る」を引っかけて、カエルが猿田彦大神の神使となったいうのが通説となっているとされています。

そのため、近代より「無事帰る」にちなんだ旅行や落し物に関する験担ぎの祈願が多く、それに伴って当社に蛙像が奉納されるようになったとされ、現在では二見のマスコットとなっているそうです。

境内の見どころ

鳥居

人文研究見聞録:二見興玉神社 [三重県]

二見興玉神社の鳥居です。

狛犬

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二見興玉神社の狛犬です。

蛙の手水舎

人文研究見聞録:二見興玉神社 [三重県]

二見興玉神社の手水舎です。

神使とされる蛙の口から水が出ています(水の跡が錆びて凄い画になっています)。

蛙像

人文研究見聞録:二見興玉神社 [三重県]

二見興玉神社の蛙像です。

境内には多種多様な蛙像が奉納されています。

詳しくはこちらの記事を参照:【二見興玉神社のカエル】

天宇受女命像

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二見興玉神社の天宇受女命像(あめのうずめぞう)です。

アメノウズメはアマテラスの岩戸隠れで活躍し、後にサルタヒコの妻となったとされる神です。

祭神では無いようですが、それらに因んでいるからか、天の岩屋の前に安置されています。

輪注連縄

人文研究見聞録:二見興玉神社 [三重県]

二見興玉神社の輪注連縄(わしめなわ)です。

この注連縄で身体を擦り、穢れや患部の痛みなどを移して納める習わしになっているようです。

拝殿

人文研究見聞録:二見興玉神社 [三重県]

二見興玉神社の拝殿です。

この先に進むと、夫婦岩を近くで見れるポイントに着きます。

本殿

人文研究見聞録:二見興玉神社 [三重県]

二見興玉神社の本殿です。

日の神皇居遥拝所

人文研究見聞録:二見興玉神社 [三重県]

二見興玉神社の日の神皇遥拝所(ひのかみこうきょようはいじょ)です。

「興玉神石の皇居」とみなされている夫婦岩から、「日の大神(太陽)」を遥拝する場所となっています。

二見浦と立石

人文研究見聞録:二見興玉神社 [三重県]

二見興玉神社から望む二見浦と立石(夫婦岩)です。

この立石(夫婦岩)が一番の見どころとなっているため、周辺には多くの観光客が集まっています。

料金: 無料
住所: 三重県伊勢市二見町江575(マップ
営業: 終日開放
交通: 二見浦駅(徒歩24分)

公式サイト: http://www.amigo2.ne.jp/~oki-tama/
matapon
著者: matapon Twitter
「日本神話」を研究しながら日本全国を旅しています。旅先で発見した文化や歴史にまつわる情報をブログ記事まとめて紹介していきたいと思っています。少しでも読者の方々の参考になれば幸いです。