人文研究見聞録:飛鳥坐神社 [奈良県]

奈良県高市郡明日香村にある飛鳥坐神社(あすかにいますじんじゃ)です。

飛鳥寺付近に鎮座する神社であり、毎年2月の第1日曜日には奇祭「おんだ祭」が行われることで有名です。

なお、その創祀は古いとされ、宮中から出された天照大神が初めて祀られたとする「倭笠縫邑」はここであるという伝承もあることから、近世までは「元伊勢」と称していたとされています(元伊勢の1社ではあるが、倭笠縫邑は三輪山の檜原神社に比定する説が通説となっている)。

また、境内には多種多様な奇石が安置されており、その中には古代の性器崇拝の名残と思われる陰陽石や、異様な姿をした人型の石像などがあります。そのため、謎の石造物が多い明日香村の見どころの一つであるとも言える神社となっています。

境内の見どころについてはこちらの記事を参照:【飛鳥坐神社の見どころ】


由緒

人文研究見聞録:飛鳥坐神社 [奈良県]

創建年代は不詳とされるものの、古文献の記述に基づく古社であり、現在は事代主神(八重事代主神)・飛鳥神奈備三日女神(賀夜奈流美乃御魂)・大物主神・高皇産靈神を主祭神として祀っています。

江戸時代には高取城の鬼門に当たる神社として、高取藩初代藩主・植村家政によって深く信仰されたそうです。

なお、諸文献の伝える飛鳥坐神社の由緒は以下の通りです。

・『日本書紀』:事代主神は首渠神として八十万の神々を統率し、この天高市(飛鳥)に鎮まった
・『先代旧事本紀』:大己貴神と高津姫神の間に生まれた事代主神は、高市社(甘南備飛鳥社)に鎮座する
・『出雲國造神賀詞』:大国主神が皇室の近き守護神として、賀夜奈流美命の神霊を飛鳥の神奈備に奉斎した
・『日本紀略』:天長6年(829)、神託によって現在の鳥形山へ遷座した(遷座する前の場所については諸説ある)

祭神

飛鳥坐神社の祭神は以下の通りです。

主祭神

・八重事代主神(ヤエコトシロヌシ):通説では大国主の子とされるが諸説ある
 ・「むすひの神」とされ「都味歯八重事代主」「於天事代於虚事代玉籖入彦厳之事代主神」という尊称があると伝える
 ・頭に着く「八重」は事代主という称号の八代目を指すとも(正統竹内文書)
・飛鳥神奈備三日女神(賀夜奈流美乃御魂):『出雲国造神賀詞』登場する神
 ・オオモノヌシ、アヂスキタカヒコネ、コトシロヌシと共に皇室を守護する神とされる
・大物主神(オオモノヌシ):三輪山に鎮座する大神神社の主祭神(オオクニヌシの別名とも)
・高皇産霊神(タカミムスビ):造化の三神の一柱だが、世襲される神名という説もある

なお、祭神には多くの異説があり、書物によって異なるとされています(以下を参照)。

・『大神分身類社鈔』:事代主命・高照光姫命・木俣命・建御名方命
・『五郡神社記』:大己貴命・飛鳥三日女神・味鋤高彦神・事代主神
・『社家縁起』:事代主命・高照光姫命・建御名方命・下照姫命
・『出雲國造神賀詞』:「賀夜奈流美の御魂の飛鳥の神奈備に坐て」との記述がある

境内社

人文研究見聞録:飛鳥坐神社
払戸社
人文研究見聞録:飛鳥坐神社
八坂・金毘羅神社
人文研究見聞録:飛鳥坐神社
白髭神社
人文研究見聞録:飛鳥坐神社
奥の社
人文研究見聞録:飛鳥坐神社
飛鳥山口坐神社
人文研究見聞録:飛鳥坐神社
むすびの神石
人文研究見聞録:飛鳥坐神社
塞の神
飛鳥坐神社の境内社は以下の通りです。

・払戸社:瀬織津比咩神・速開津比咩神・気吹戸主神・速佐須良比咩神を祀る
・八坂・金毘羅神社:右に八坂神社(災難除)、左に金毘羅神社(福の神)、中央に陰陽石を祀る
・白髭神社:不詳だが、一説には猿田彦神が祀られているとされる
・奥の社:元伊勢とされており、天照大神・豊受大神を祀っている
・飛鳥山口坐神社:大山津見命、久久乃之知命、猿田彦命を祀るとされる(山神とも)
・むすびの神石:自然石とされる陰陽石を磐座形式で祀る
・塞の神:爬虫類?に似た奇石を塞の神(道祖神)として、磐座形式で祀る

おんだ祭り

人文研究見聞録:飛鳥坐神社 [奈良県]

飛鳥坐神社では、毎年2月の第1日曜日に「おんだ祭り(お田植祭)」という奇祭が行われ、その祭りの中では「夫婦和合の儀式」として、天狗とお多福による性行為(のマネ事)を披露するという内容になっているそうです。

その際、性器を拭き取った紙は「福の紙」と呼ばれ、客席に投げ入れられます。その紙を手に入れた者は幸運を掴むとされており、その家は益々繁栄すると言い伝えられているそうです。

なお、天狗とお多福のモデルは、日本神話に登場する「サルタヒコ」と「アメノウズメ」であると言われています。

詳しくはこちらの記事を参照:【おんだ祭】

境内で祀られる石造物

人文研究見聞録:飛鳥坐神社
陰陽石(磐座祭祀)
人文研究見聞録:飛鳥坐神社
陰陽石
人文研究見聞録:飛鳥坐神社
塞の神
飛鳥坐神社の境内には、陰陽石(男女の性器を模った石)をはじめとする数々の奇石が祀られており、謎の石造物の産出地として有名な明日香村の特色を色濃く残している様子が窺えます。

また、これらの奇石は概ね磐座形式で祀られていることから、古くは古神道(原始神道)もしくは生殖器を崇拝する土着の信仰があったのではないかとも考えられます。

性器崇拝についてはこちらの記事を参照:【生殖器崇拝(性器崇拝)とは?】

料金: 無料
住所: 奈良県高市郡明日香村大字飛鳥字神奈備708
営業: 終日開放
交通: 橿原神宮前駅(徒歩38分)、岡寺駅(徒歩39分、バスまたはレンタサイクル推奨)

公式サイト:http://www2.ocn.ne.jp/~jinja/
matapon
著者: matapon Twitter
「日本神話」を研究しながら日本全国を旅しています。旅先で発見した文化や歴史にまつわる情報をブログ記事まとめて紹介していきたいと思っています。少しでも読者の方々の参考になれば幸いです。