人文研究見聞録:日御碕神社(神の宮・日沈宮) [島根県]

島根県出雲市にある日御碕神社(ひのみさきじんじゃ)です。

神代に創祀されたと伝わる古社であり、上の社(神の宮)神素盞嗚尊下の社(日沈宮)天照大御神を祀っています。

地元では「みさきさん」と呼ばれており、出雲大社の祖神(おやがみ)さまとして崇敬されているそうです。

また、神社の対岸にある経島は日沈宮の旧鎮座地であり、現在はウミネコの繁殖地として知られています。


神社概要

由緒

由緒書によれば、当社はスサノオを祀る「上の社(神の宮)」とアマテラスを祀る「下の社(日沈宮)」の上下二社に分かれており、『出雲国風土記』の「美佐伎社」「御前社」「百枝槐社」に当たる古社であるとされます。なお、神の宮は「美佐伎社」、日沈宮は「百枝槐社」に比定されているそうです。

社伝によれば、神の宮については スサノオが出雲の熊成峯に登って鎮まる地を求めたとき、柏葉を取って「吾が神魂はこの葉の止まる所に住まん」と占って隠ヶ丘に留まることとなり、御子神の天葺根命(アメノフキネ)がスサノオの御魂をその地に奉斎したことに始まるとされます。なお、隠ヶ丘(古墳)は社殿の裏側にあり、安寧天皇13年に勅命によって現在地に遷座したとされています。

また、日沈宮については 天葺根命が経島にいた時にアマテラスが降臨して「我天下の蒼生(国民)を恵まむ、汝速かに我を祀れ」との神勅が下ったため、経島に奉斎したことに始まるとされます。その後、天暦2年(948年)に村上天皇の勅命によって現在地に遷座したとされています。

なお、由緒書による説明は以下の通りです。

【日御碕神社(日御碕浦)】

日御碕神社の所在の浦は、『出雲国風土記』にみえる「御前浜(みさきのはま) 広さ120歩あり。百姓の家あり」とみえる御前浜にあたる。その「百姓」の「御埼の海子」が採集する鮑は名品であったという。

『風土記』には現・日御碕神社の祖形とされる「美佐伎社」「御前社」「百枝槐社」がみえる。「美佐伎社」が素戔嗚尊(スサノオ)を祭る上の社(神の宮)、元は経島(ふみしま)にあったと思われる「百枝槐社」が天照大神(アマテラス)を祭神とする下の社(日沈宮)とされ、「御前社」は不明である。

「伊勢神宮は日の本の昼を守り、日御碕大神宮は日の本の夜を守る」との伝承を受け止めれば、夜を治める「月夜見命(ツクヨミ)」も鎮座していることに注目したい。

祭礼としては毎年8月7日の夕方 日沈みの宮の旧社地に鎮座する経島神社での「夕日の祭」、旧暦1月5日に宇龍港の権現島に鎮座する熊野神社で行われる和布刈神事(めかりしんじ)、そして秘祭として大晦日に行われる神饌・奉天神事がある。

【日御碕神社 御由緒】

下の本社(日沈の宮) 主祭神 天照大御神 村上天皇天暦2年 勅命により現在の地に移し祀る
上の本社(神の宮) 主祭神 神素盞鳴尊 安寧天皇13年 現在地に移し祀る
古来、両本社を総称して日御碕大神宮と称す

日沈の宮の遠源は、神代の昔 素盞鳴尊(スサノオ)の御子神・天葺根命(アメノフキネ、また天冬衣命と申す宮司家の遠祖)が現社地に程近い経島(ふみじま)に天照大御神(アマテラス)の御神託を受け祀り給うと伝えられる。

また「日出る所 伊勢国五十鈴川の川上に伊勢大神宮を鎮め祀り、日の本の昼を守り、出雲国日御碕の清江の浜に日沈宮を建て、日御碕大神宮と称して日の本の夜を護らむ」、天平7年乙亥の勅に輝く日の大神の御霊顕が仰がれる如く、古来 日御碕は夕日を餞(はなむ)け鎮める霊域とされ、また素盞鳴尊は出雲の国土開発の始めをされた大神と称えられ、日御碕の「隠ヶ丘」は素尊の神魂の鎮まった霊地と崇められた、「神の宮」は素尊の神魂鎮まる日本総本宮として「日沈宮」と共に出雲の国の大霊験所として皇室を始め あまねく天下の尊崇を受け、現在に至っている。

然して その御神徳は天照大御神の「和魂(ニギミタマ)」、素盞鳴尊の「奇魂(クシミタマ)」の霊威を戴き、「国家鎮護」「厄除開運」「交通公開の安全」「良縁・夫婦円満・安産」「家業繁昌」の守護神として御霊験あらたかである。

現在の社殿は、徳川三代将軍・家光公の幕命による建立にして、西日本では例のない総「権現造」である両社殿とも内陣の壁画装飾は極彩色で華麗にして荘厳の至である。社殿のほとんど および石像建造物は国家重要文化財である。

祭神

日御碕神社の祭神は以下の通りです。

【神の宮(上社)】

・[主祭神] 神素戔嗚尊(カムスサノオ):三貴子の一柱で出雲の祖神(天照大神の弟神に当たる)
・[相殿神] 田心姫・湍津姫・厳島姫:誓約で生まれた三女神(宗像三女神)

【日沈宮(下社)】

・[主祭神] 天照大御神(アマテラス):太陽を神格化した皇祖神であり、伊勢内宮の主祭神として有名(大日貴とも)
・[相殿神] 正哉吾勝尊・天穂日命・天津彦根・活津彦根命・熊野櫲樟日命:誓約で生まれた五男神

境内社

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日御碕神社の境内社は以下の通りです。

・門客人神社(2社)
・韓国神社:五十猛命を祀る
・蛭児社:蛭兒命を祀る
・荒祭宮
・稲荷社
・荒魂神社
・日和碕神社:大市姫命を祀る
・秘臺神社:日神荒魂を祀る
・曽能若姫神社:曽能若姫命を祀る
・大山祇神社:大山祇命・磐長姫命を祀る
・意保美神社:意美豆努命を祀る
・波知神社:須世理姫命を祀る
・大土神社:大土神を祀る
・立花神社:伊弉諾尊を祀る
・中津神社:磐土命・赤土命・底土命を祀る
・宇賀神社:倉稲魂命を祀る
・窟神社:稚日女命を祀る
・眞野神社:近江國諸神を祀る
・大野神社:出雲國諸神を祀る
・問神社:稲田姫命・脚摩乳命・手摩乳命を祀る
・加賀神社:天照大御神を祀る
・坂戸神社:道返大神を祀る
・若宮:手力雄命・兒屋命・大玉命を祀る
・大歳神社:大歳神・奥津彦神・奥津姫神を祀る
・八幡神社:仲哀天皇・應神天皇・神功皇后を祀る
・順式社:権大僧都・順式慶雄和尚を祀る

関連知識

和布刈神事

人文研究見聞録:日御碕神社(神の宮・日沈宮) [島根県]

日御碕神社では、毎年旧暦1月5日(2月中旬頃)に宇龍港の権現島に鎮座する熊野神社で和布刈神事(めかりしんじ)という神事が行われます。この神事は「成務天皇6年1月5日の早朝、一羽のウミネコが海草を日御碕神社の欄干に3度掛けて飛び去った。不思議に思った神主がそれを水洗いして乾かしたところワカメになった」という故事に基づくものであるとされています。

神事の内容は、浜辺から権現島の間に大漁旗を掲げた6隻の船が並び、選ばれた地元の若者が海に飛び込んで参道になる船板を支え、その上を通って神主が渡島すると、箱メガネで海中を探って新しいワカメを刈り上げ、神前にそのワカメを供えて豊漁を祈願するというものであり、「日御碕わかめ」は この神事が終わってから初めて刈り取るしきたりになっているそうです。

境内の見どころ

鳥居

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日御碕神社の鳥居です。

神門

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日御碕神社の神門です。

中には随神ではなく、狛犬が祀られています。

神門の狛犬

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神門内の狛犬です。

門客人神社

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神門を抜けると左右に門客人神社が祀られています。

日沈宮(下社)

人文研究見聞録:日御碕神社(神の宮・日沈宮) [島根県]

日御碕神社の日沈宮(ひしずみのみや)です。

下の社に当たり、祭神に天照大御神を祀っています。

おみくじ

人文研究見聞録:日御碕神社(神の宮・日沈宮) [島根県]

日御碕神社のおみくじです。

50円と安価であり、他に七福神みくじやだるまみくじもあります。

回廊

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日御碕神社の日沈宮の回廊です。

神の宮(上社)

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日御碕神社の神の宮(かんのみや)です。

上の社に当たり、祭神に神素盞鳴尊を祀っています。

御神砂之碑

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日御碕神社の御神砂之碑です。

神紋石舎

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日御碕神社の神紋石舎です。

中には神紋石と呼ばれる石が祀られています。

経島

人文研究見聞録:日御碕神社(神の宮・日沈宮) [島根県]

日御碕神社付近にある経島(ふみじま)です。

かつては日沈宮が鎮座していたとされ、ウミネコ繁殖地としても知られています。

料金: 無料
住所: 島根県出雲市大社町日御碕455(マップ
営業: 8:30~16:30(過ぎても参拝は可能)
交通: JR出雲市駅 日御碕行きバス「終点」下車(徒歩1分)

関連サイト: https://www.izumo-kankou.gr.jp/89
matapon
著者: matapon Twitter
「日本神話」を研究しながら日本全国を旅しています。旅先で発見した文化や歴史にまつわる情報をブログ記事まとめて紹介していきたいと思っています。少しでも読者の方々の参考になれば幸いです。