人文研究見聞録:船江上社・河原淵神社 [三重県]

三重県伊勢市にある船江上社(ふなえかみのやしろ)・河原淵神社(かわらぶちじんじゃ)です。

当地は古来より伊勢外宮の摂社が鎮座していた場所とされており、現在では地域の氏神と共に祀られています。

なお、境内の神池には古くから龍神が棲むと伝えられることから、池内に鳥居が建てられ、龍の模型が祀られています。

また、境内に大小無数の磐座が祀られていることも珍しく、なかなか不思議な雰囲気のある神社となっています。


神社概要

船江上社

人文研究見聞録:船江上社・河原淵神社 [三重県]

船江上社(ふなえかみのやしろ)は朧ヶ池という池の畔に鎮座する神社であり、現在は地域の氏神とされています。なお、社名の「上社」は、かつて船江の上下の二村あり、当社が上船江の産土神であったことに由来しているとされます。

歴史については、当地はかつて外宮摂社・河原淵神社の社地であったとされますが、戦国時代には荒廃していたため、その宮跡に付近の住民が自分たちの産土神を祀ったと考えられているようです。

また、古くは「八幡宮」と称されていたとされますが、祭神は八幡神(宇佐神宮からの勧請では無いとされる)あるいは不詳とされており、明治11年(1878年)12月に河原淵神社が遷座され、大正2年(1913年)8月に河原淵神社の本地であるという理由から、河原淵神社の祭神である澤姫神を当社の主祭神に定めたとされています。

加えて、年代不詳とされるものの、新開御薗の近辺に鎮座した志賀井社他二社(八幡大神、気長足姫命、神名不詳一座)を合祀し、明治維新後には船江町北檜尼鎮座の檜後社(神名不詳一座)、明治9年(1876年)9月に同町字流江鎮座の箕曲氏社(天牟羅雲命)、明治41年(1908年)3月25日に同町字天路二四八鎮座の無格社菅原社(菅原道真公)、菅原社境内社の稲荷社(宇賀之御魂と秋葉社(火産靈神)の各社を合祀して今日に至るとされています。

本殿祭神

・澤姫命(さわひめのみこと):水の守護神とされる

西殿祭神

・箕曲氏社祭神
 ・天牟羅雲命(アメノムラクモ):飲料水の神(豊受大神宮の井戸にまつわる伝説を持つ)

東殿祭神

・志賀井社祭神
 ・八幡大神(はちまんおおかみ):応神天皇(武神)
 ・気長足姫命(おきながたらしひめ)神功皇后
 ・綿津見神(ワダツミ)
 ・不詳一座
・檜尻社祭神
 ・川神
・菅原社祭神
 ・菅原道眞公(すがわらのみちざね):天満天神、学問の神
 ・宇賀之魂神(ウカノミタマ):稲荷神
 ・火産霊神(ホムスビ):火伏せの神(カグツチと同神とも)

※情報は資料によって異なると思われるため、明確な祭神は不明

河原淵神社

人文研究見聞録:船江上社・河原淵神社 [三重県]

河原淵神社(かわらぶちじんじゃ)は豊受大神宮(外宮)の摂社で、式内社・川原淵神社に比定されている古社であり、祭神に水の守護神とされる澤姫命(さわひめのみこと)を祀っているとされています(外宮の摂社16社のうち第12位であるとも)。

また、創祀は不明とされるものの、平安初期に編纂された外宮の社伝『止由気宮儀式帳』に記載されることから、延暦23年(804年)以前には存在していたと考えられており、『延喜式』神名帳には「川原淵神社」と記載されているそうです(諸本に「カハラフチ」のフリガナが振られているとも)。

なお、中世には廃絶し、寛文3年(1663年)に船江町檜尻の檜尻社の境内に再興し、その後、明治11年(1878年)12月に船江上社の東隣の現在地に遷座したとされています(社地には異説があり、伊勢市小木の曽禰社(箕曲神社に合祀)や伊勢市下野の地にあったとも)。

祭神

・澤姫命(さわひめのみこと):水の守護神とされる
 → 当社の祭神について、一説には啼澤女(ナキサワメ)とする説があるとも

境内社

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大石神
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大山祇神
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秋葉神社
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浅間神社
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天神
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滝姫命
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吉王稲荷神社

船江上社の境内社は以下の通りです。

・大石神:垣を巡らせて祀った神石とされる(病気平癒を祈願とある)
・大山祇神:大山祇神(オオヤマツミ)を祀る
・秋葉神社:火之迦具土神(ヒノカグツチ)を祀る
・浅間神社:此花開耶媛命(コノハナサクヤヒメ)を祀る
・天神:恐らく菅原道真公を祀っていると思われる
・瀧姫命:瀧姫命(水神)を祀る(文化14年(1817年)、朧ヶ池畔から遷座)
・吉王稲荷神社:稲荷神を祀っていると思われる

朧ヶ池(神池)

人文研究見聞録:船江上社・河原淵神社 [三重県]

船江上社の境内にある朧ヶ池(おぼろがいけ)は、宮川の分流として船江上社の聖域を通り 瀬田川に流れていた頃の名残であり、どんな干ばつにも枯れることが無い神池として保存されているそうです。なお、かつては付近に河岸があったことから「船江」という地名が付けられたとも云われています。

また、生命を司る祭神の事蹟から、病気平癒や不老成就のために鯉や亀を放流して祈願する「放生信仰」の習慣や、正月8日に「渕祭り」として神楽を奉納した後、一尺の小舟に8体の人形を乗せて池に流す神事があり、現在では毎年3月下旬に行われているそうです。

朧ヶ池の龍神

人文研究見聞録:船江上社・河原淵神社 [三重県]

朧ヶ池には古来より龍神が棲んでいると伝えられており、雲を起こして雨を降らせ、水に潜って天に昇っていくと云われ、当地の大切な神として崇められてきたそうです。そのため、現在でも龍を神とする根強い信仰があり、農作物に天の恵みである雨を降らせてくれる龍神様として各地で祀られているとされています。

また、当社でも龍姫命として祀っており、この神は、龍の各部位が9つの動物に似ているとする「龍形九似」であると言い伝えられてきたそうです(「角は鹿、頭は駱駝、目は鬼、首は蛇、腹は蜃、鱗は鯉、爪は鷹、掌は虎、耳は牛」に似るとされる)。

境内の様子

鳥居

人文研究見聞録:船江上社・河原淵神社 [三重県]

船江上社の鳥居です。

御祓所

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船江上社の御祓所です。

小さな磐座あり、その背後に木が植えられています。

菅公御袖石

人文研究見聞録:船江上社・河原淵神社 [三重県]

船江上社の菅公御袖石です。

昔、白太夫が袖ヶ浦から石を持ち帰ったところ、石が成長し大きくなったという言い伝えがあるそうです。

なお、この石は代わりの物で、伝説の石は本殿に祀られているとも云われています。

※白太夫(しらだゆう):伊勢外宮の禰宜である渡会春彦の別名であり、菅原道真公に仕えた忠義心の篤い人物だったとされる

招福楠

人文研究見聞録:船江上社・河原淵神社 [三重県]

船江上社の神木・招福楠(しょうふくくす)です。

樹齢700年の大楠であり、町民の信仰の対象として知られているそうです。

神宮遥拝所

人文研究見聞録:船江上社・河原淵神社 [三重県]

船江上社の神宮遥拝所(じんぐうようはいじょ)です。

ここから伊勢神宮を遥拝することができるようになっています。

橿原神宮遥拝所

人文研究見聞録:船江上社・河原淵神社 [三重県]

船江上社の橿原神宮遥拝所(かしはらじんぐうようはいじょ)です。

ここから奈良県の橿原神宮を遥拝することができるようになっています。

なお、伊勢には橿原神宮遥拝所のある神社が意外と多いです。

料金: 無料
住所: 三重県伊勢市船江1丁目10
営業: 終日開放
交通: 宇治山田駅(徒歩17分)、伊勢市駅(徒歩18分)
matapon
著者: matapon Twitter
「日本神話」を研究しながら日本全国を旅しています。旅先で発見した文化や歴史にまつわる情報をブログ記事まとめて紹介していきたいと思っています。少しでも読者の方々の参考になれば幸いです。