人文研究見聞録:安倍文殊院 [奈良県]

奈良県桜井市にある安倍文殊院(あべもんじゅいん)です。

飛鳥時代の左大臣・阿倍倉梯麻呂によって創建され、現在は本尊に文殊菩薩を祀る華厳宗の寺院となっています。

この文殊菩薩は快慶作の国宝であり、切戸文殊(京都)、亀岡文殊(山形)と併せて日本三文殊に数えられています。

また、陰陽師・安倍晴明が陰陽道の修行をした場所とも云われ、安倍晴明ゆかりの文化財が多数所蔵されています。

その中でも「安倍晴明公御尊軸」は国内に3本しかないものの一つなんだそうです。

そのため、安倍晴明が好きな方には非常にオススメのスポットと言えます。

安倍晴明についてはこちらの記事を参照:【安倍晴明とは?】


由緒

人文研究見聞録:安倍文殊院 [奈良県]
安倍倉梯麻呂(阿倍内麻呂)

大化元年(645年)、大化の改新を経て左大臣となった安倍倉梯麻呂(あべのくらはしまろ)※1が、安倍一族発祥の地とされる当地※2に創建したことに始まり、国内でも最も古い時代に建てられた寺院の一つとされています。

なお、奈良時代の遣唐留学生・安倍仲麻呂や、平安時代の大陰陽師・安倍晴明が出生した寺院でもあるとされ、陰陽道の源流の寺院であるとも云われているそうです(ただし、陰陽道の発祥や流派については諸説ある)。

また、創建当初は現在地の南西300メートルの場所に位置しており、それが鎌倉時代に現在地に遷されたとされています(旧寺地は現在は「安倍寺跡」として国の史跡に指定される)。

そして、鎌倉時代に快慶によって本尊の渡海文殊菩薩群像が造立されて以来、智恵授与・魔除け・災除けの祈祷の寺として全国にその名が知られるようになったとされ、現在は日本三文殊の一つとして有名です。

※1 阿倍内麻呂(あべのうちまろ)とも
※2 大阪の阿倍野など他の説もある

本堂(概要とシステム)

本堂

人文研究見聞録:安倍文殊院 [奈良県]

安倍文殊院の本堂です。

堂内には国宝の渡海文殊菩薩群像をはじめとする仏像が安置されており、本堂の外からも拝むことができます。

なお、堂内の仏像は文殊菩薩のほか、空海(大師像)、地蔵尊、釈迦如来などで、密教法具の五枯杵も安置されています。

以下に掲載する宝物の画像は、境内のパネルを撮影したものです(堂内の撮影は禁止されている)

渡海文殊菩薩群像

人文研究見聞録:安倍文殊院 [奈良県]

本堂の中心には鎌倉時代の仏師・快慶作の木造騎獅文殊菩薩像および脇侍像が安置されています。

この騎獅文殊菩薩像は高さ7メートルであり、日本最大の大きさとされています。

また、胎内から発見された巻物「造立願文」によって、承久2年(1220年)に造立されたことが判明しているそうです。

なお、像の前には椅子が用意されているため、間近で座って眺めることができます。

本堂の入場システム

人文研究見聞録:安倍文殊院 [奈良県]

本堂への入場は有料であり、本堂もしくは金閣浮御堂前にある拝観受付で入場券を購入する必要があります。

本堂の入場券には抹茶+茶菓子(落雁)のサービス付きであり、入場と同時に茶室に通されます。

そして、茶室でサービスを受けた後、堂内を巡るといった流れとなっています(個人の場合)。

なお、本堂と金閣浮御堂を両方拝観する場合は200円割引となるようです(共通券もある)。

金閣浮御堂(概要とシステム)

金閣浮御堂(仲麻呂堂)

人文研究見聞録:安倍文殊院 [奈良県]

安倍文殊院の金閣浮御堂(きんかくふみどう)です。

文殊池に建てられた六角形の建物であり、当山出生の安倍仲麻呂および安倍晴明を祀っているとされています。

なお、建物の角には十二天(密教の秘仏)の掛軸が方位に対応して祀られており、池内には錦鯉が泳いでいます。

以下に掲載する宝物の画像は、境内のパネルを撮影したものです(堂内の撮影は禁止されている)

霊宝館

人文研究見聞録:安倍文殊院 [奈良県]
安倍晴明公御尊軸
人文研究見聞録:安倍文殊院 [奈良県]
安倍晴明公像
人文研究見聞録:安倍文殊院 [奈良県]
安倍仲麻呂公像

金閣浮御堂の内部は霊宝館として、安倍仲麻呂・安倍晴明に関する宝物が納められています。

中でも「安倍晴明公御尊軸」「安倍仲麻呂公像」「安倍晴明公像」は秘宝とされ、注目すべき見どころとなっています。

個人的には『簠簋内伝(ほきないでん)』が展示されていることが斬新だと思いました。

※簠簋内伝(金烏玉兎集):安倍晴明が編纂したと伝承される占いの専門書

七まいり

人文研究見聞録:安倍文殊院 [奈良県]

金閣浮御堂の入場の際には「七まいり納め札」という7枚つづりの金色の札を渡されます。

これは参拝者の厄災を祓うための「七まいり」に必要なものであり、浮御堂ではこれを行うことが通例とされています。

なお、「七まいり」とは回廊を入口から時計回りに7回巡って、最後に納め札を納めるといったものとなっています。

こうすることで、七難(生涯に7度遭うとされる災難)を除けることができるとされています。

金閣浮御堂の入場システム

人文研究見聞録:安倍文殊院 [奈良県]
御守
人文研究見聞録:安倍文殊院 [奈良県]
納め札

金閣浮御堂への入場は有料であり、本堂もしくは金閣浮御堂前にある拝観受付で入場券を購入する必要があります。

金閣浮御堂の入場券には御守+納め札のサービス付きであり、入場と同時に渡されて説明を受けます。

そして、上記の「七まいり」を行い、霊宝館を拝観するという流れが一般的とされています。

なお、本堂と併せて拝観する場合は200円割引となるようです(共通券もある)。

境内のその他の見どころ

文殊院西古墳(願掛け不動)

人文研究見聞録:安倍文殊院 [奈良県]

安倍文殊院の文殊院西古墳です。

7世紀中頃の古墳とされ、安倍倉梯麻呂の墓であるとも云われています(安倍一族の墓であることが確実視されている)。

なお、石室内には空海作とされる不動明王の石像が「願掛け不動」として祀られています。

詳しくはこちらの記事を参照:【文殊院西古墳】

稲荷神社(葛の葉稲荷)

人文研究見聞録:安倍文殊院 [奈良県]

安倍文殊院の稲荷神社です。

安倍晴明の伝説上の母である葛の葉狐(白狐)に因んで、葛葉稲荷大明神を祀っているとされています。

財運・金運・悪気払い・家運隆昌・商売繁盛の御利益があるそうです。

不動堂

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安倍文殊院の不動堂です。

仏像群

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安倍文殊院の仏像群です。

空海(弘法大師)の像をはじめとする多数の仏像が祀られています。

十一面観音像

人文研究見聞録:安倍文殊院 [奈良県]

安倍文殊院の十一面観音像です。

金毘羅大権現

人文研究見聞録:安倍文殊院 [奈良県]

安倍文殊院の金毘羅大権現(こんぴらだいごんげん)です。

この金毘羅大権現は江戸時代に香川県の金刀比羅宮から分霊を勧請したものとされています。

なお、金毘羅権現はそもそも香川県の琴平山(象頭山)の山岳信仰と修験道が融合した神仏習合の神とされています。

しかし、本来の祭神には諸説あり、現在では三輪山に鎮まる大物主であるという見解が有力とされているようです。

そのためか、安倍文殊院をはじめとする桜井市の社寺には、金毘羅権現の石碑が数多く祀られています。

白山堂(白山神社本殿)

人文研究見聞録:安倍文殊院 [奈良県]

安倍文殊院の白山堂です。

この神社は、石川県の霊峰「白山」を御神体とする白山神社の末社とされています。

祭神には、白山比咩大神(しらやまひめおおかみ)、別名 菊里媛神(キクリヒメ)を祀っています。

この神は、日本神話の「イザナギの黄泉国訪問」の説話でイザナギとイザナミの仲を取り持ったとされています。

そのため、縁結びに御利益があるとされ、安倍文殊院では「縁結び大神」とも呼ばれているようです。

なお、霊峰「白山」は修験道や陰陽道における大霊地として篤く信仰されてきたとされます。

よって、安倍文殊院で修行したとされる陰陽師・安倍晴明に因んで当地に勧請されんだそうです。

文殊院東古墳(閼伽井古墳)

人文研究見聞録:安倍文殊院 [奈良県]

安倍文殊院の文殊院東古墳です。

7世紀前半の築造とされ、古来から「閼伽井の窟(あかいのくつ)」と呼ばれて信仰されてきたそうです。

なお、羨道の中ほどにある泉からは湧水がこんこんと湧き出し、古くから枯れたことが無いとされています。

そのため、「閼伽水(智恵の水)」と呼ばれ、仏に供えるための神聖な水とされてきたそうです。

詳しくはこちらの記事を参照:【文殊院東古墳】

展望台

人文研究見聞録:安倍文殊院 [奈良県]

安倍文殊院の展望台です。

かつて安倍晴明が此処から天文観測を行ったとされています。

晴明堂

人文研究見聞録:安倍文殊院 [奈良県]

安倍文殊院の晴明堂です。

当院で修行したとされる安倍晴明に因んで、平成16年(2004年)に建立されたものとされています。

なお、堂内には「五芒星を配した社殿」と「如意宝珠」が設けられ、祭神に陰陽師・安倍晴明が祀られています。

この「如意宝珠」とは、仏教の経典で説かれた玉であり、あらゆる願いを自在に叶えてくれるものなんだそうです。

そのため、参拝の際には「如意宝珠」撫でながら祈願するという特殊な方法となっています(7工程ある)。

人文研究見聞録:安倍文殊院 [奈良県]
社殿
人文研究見聞録:安倍文殊院 [奈良県]
如意宝珠
人文研究見聞録:安倍文殊院 [奈良県]
祈願の方法

料金: 本堂(700円)、金閣浮御堂(700円)※共通券1200円
住所: 奈良県桜井市阿部645
営業: 9:00~17:00
交通: 桜井駅(徒歩16分)

公式サイト: http://www.abemonjuin.or.jp/
matapon
著者: matapon Twitter
「日本神話」を研究しながら日本全国を旅しています。旅先で発見した文化や歴史にまつわる情報をブログ記事まとめて紹介していきたいと思っています。少しでも読者の方々の参考になれば幸いです。