人文研究見聞録:松尾大社 [京都府]

京都市西京区嵐山宮町にある松尾大社(まつのおたいしゃ)です。

古代の磐座祭祀に始まるとされる古社であり、全国に勧請される松尾神社の総本社となっています。

また、酒の神としても有名であり、境内に酒の資料館があるほか、酒にまつわるイベントも開催されています。


神社概要

由緒

社伝によれば、当社は古代の磐座祭祀を起源としており、太古に当地一帯に住んでいた住民が、松尾山の山霊(主祭神の大山咋神とされる)を頂上に近い大杉谷の上部の磐座に祀って生活の守護神として尊崇したことに始まると伝えられています。

なお、5世紀頃に秦の始皇帝の子孫と称する秦氏(はたうじ)が大集団で渡来し、朝廷の招きによって当地に来往するようになると、秦氏の首長は松尾山の神を一族の総氏神と仰いで当地の開拓に従事したとも伝えられているそうです。

また、第42代 文武天皇の御代である大宝元年(701年)には、秦忌寸都理(はたのいみきとり)が勅命を奉じて、当地に神殿を造営し、山上の磐座の神霊を社殿に遷して娘の知満留女(ちまるめ)を斎女として奉仕したとされます(この子孫が明治初年まで当社の幹部神職を勤めたとされる)。

そして、平安京遷都後は、東の賀茂神社とともに「東の厳神、西の猛霊」と称されて西の王城鎮護社に位置づけられ、中世以降は「酒の神」としても信仰されるようになったとされています。

このことから醸造家による信仰が篤いとされ、現在では毎年4月に「酒-1グランプリ」という最も愛された日本酒を決定するイベントなども開催されているようです。

なお、由緒書による説明は以下の通りです。

大山咋神(オオヤマクイ)と市杵嶋姫命(イチキシマヒメ)の二神を祀る。

大宝元年(701年)に秦忌寸都理(はたのいみきとり)が、松尾山大杉谷の磐座の神霊を勧請し、秦氏の氏神として当地に社殿を建立したのが起こりと伝えられる。

平安遷都後は王城鎮護の神として、また中世以降は酒造の神として人々の信仰を集めている。

祭神

松尾大社の祭神は以下の通りです。

主祭神

・大山咋神(おおやまくいのかみ):日吉大社・松尾神社の主祭神であり、山王権現と習合している
 → 『古事記』によれば、オオトシノカミの御子神とされる
 → 秦氏の氏神として祀られている
・中津島姫命(なかつしまひめのみこと):市杵島姫命(いちきしまひめ)の別名とされる

この二神を併せて「松尾大神」と呼び、中世以降には「酒の神」としても祀られるようになったそうです。

境外摂社

月読神社(月讀神社)

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松尾大社の境外摂社である月読神社です。

当社の南の松室山添町に鎮座しており、祭神に月読尊(ツクヨミ)を祀っています。

詳しくはこちらの記事を参照:【月読神社(月讀神社)】

櫟谷宗像神社(嵐山弁天社)

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松尾大社の境外摂社である櫟谷宗像神社です。

渡月橋付近の嵐山中尾下町に鎮座しており、祭神に奥津島姫命(オキツシマヒメ)市杵島姫命(イチキシマヒメ)を祀っています。

詳しくはこちらの記事を参照:【櫟谷宗像神社(嵐山弁天社) 】

境内末社

北末社・南末社

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北末社
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南末社

松尾大社の境内にある北末社・南末社です。

【北末社】

・三宮社(さんのみやしゃ):玉依姫命(タマヨリヒメ)を祀る(松尾七社の一社)

・四大神社(しのおおかみのやしろ):春若年神、夏高津日神、秋比売神、冬年神を祀る(松尾七社の一社)

【南末社】


・祖霊社(それいしゃ):松尾社ゆかりの功績者を祀る

・金刀比羅社(ことひらしゃ):大物主神(オオモノヌシ)を祀る
 → 大国主神の和魂(にぎみたま)を祀っていると説明される
 → 商売繁昌・交通安全の守護神
・一挙社(いっきょしゃ): 一挙神を祀る
 → 室町時代には既に鎮座していたとされ、祭神については素戔嗚尊(スサノオ)の別名という説がある
 → この神に祈れば一挙に解決するという伝承があることから、一挙社とされる
・衣手社(ころもでしゃ):祭神に羽山戸神を祀る(松尾七社の一社)
 → 農耕および諸産業の守護神とされる

滝御前

人文研究見聞録:松尾大社 [京都府]
滝御前
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天狗岩

松尾大社の滝御前(たきごぜん)です。

祭神に水神・罔象女神(ミズハノメ)を祀っており、鳥居の背後の「霊亀の滝」を神体としています。

なお、滝の側面にある岩は「天狗岩(てんぐいわ)」と呼ばれる奇岩とされています。

よく見れば「横を向いた天狗の顔」に見えるため、この名で呼ばれているんだそうです。

関連知識

大山咋神とは?

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大山咋神(おおやまくいのかみ)は、大山に杭を打つ神(大きな山の所有者の意)という神名から、山の地主神であり、また、農耕(治水)を司る神であるとされています。

『古事記』や『旧事紀』によれば、スサノオの子の大年神(おおとしのかみ)と天知迦流美豆比売(あめのかるみずひめ)の子であるとされ、『古事記』の大国主の段に「此の神は近淡海国の日枝の山に坐し」とあることから、比叡山の日吉大社の祭神と同神とされています。

伝説によれば、「大山咋神は丹波国が湖であった大昔、住民の要望により保津峡を開き、その土を積んだものが亀山・荒子山(あらしやま)となった。そのおかげで丹波国では湖の水が流れ出て沃野ができ、山城国では保津川の流れで荒野が潤うに至った。よって、この神は山城・丹波の開発に努められた神である。」とされており、開拓神という性格から山背国の開拓に努めてきた渡来系氏族の秦氏の氏神とされるようになったんだそうです。

また、『秦氏本系帳』にある「丹塗矢の神話」によれば、上賀茂神社の祭神である賀茂別雷大神は大山咋神と同神であるとされ、それが『山城国風土記』に記される賀茂氏の伝承と符号が一致することから、秦氏と賀茂氏の関連性が指摘されています。

中津島姫命とは?

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中津島姫命(なかつしまひめ)は、松尾大社によれば スサノオの子の市杵島姫命(イチキシマヒメ)の別名とされ、松尾山頂に残る磐座(御神蹟)に降臨したとしたと伝えられているそうです。

市杵島姫命(イチキシマヒメ)は、宗像大社の祭神・宗像三女神の一柱であり、弁財天と同神として親しまれている神ですが、松尾大社は中津島姫命と市杵島姫命を同神としていることから、公式サイトでも市杵島姫命(イチキシマヒメ)と表記し、この神についての解説が記されています。

神使の亀と鯉

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松尾大社の神使(神の使い)は「」と「」であり、境内には多数の像が点在しています。

これは神社文書における「松尾神は大堰川を遡り丹波地方を開拓するにあたって、急流では鯉に、緩流では亀に乗った」という記述に由来するものとされているそうです。

亀の井

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亀の井
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亀の井の亀像

松尾大社の亀の井(かめのい)です。

霊亀の滝の手前に位置している霊泉であり、「延命長寿の水」または「蘇りの水」としても有名です。

また、「亀の井の水を酒に混ぜると腐敗しない」と云われ、醸造家がこれを持ち帰る風習が残っているんだそうです。

なお、一般的には茶道・書道の用水として用いられており、家庭用水として持ち帰ることも可能です。

境内の見どころ

鳥居と脇勧請

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松尾大社の鳥居には「脇勧請(わきかんじょう)」と呼ばれる榊(さかき)を束ねたものがぶら下がっています。

これは鳥居の原始形式を示すものとされ、榊の束は12(閏年は13)あり、月々の農作物の出来具合を占った太古の風俗を継承しているものと伝えられています。

なお、毎年の年始に掛け替えられるものであるため、年末には かなり枯れた状態になっています。

駕與丁船

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松尾大社の駕與丁船(かよちょうぶね)です。二の鳥居付近に展示されています。

この船は松尾祭神幸祭(おいで)に用いられる舟形の神輿であり、祭で桂川を渡る際に船として使われるそうです。

お酒の資料館

人文研究見聞録:松尾大社 [京都府]
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松尾大社のお酒の資料館です。無料で入ることができます。

酒造の方法や工程、それに使用される道具などについて詳しく解説されています(ビデオあり)。

また、酒造関連の展示のほかにも祭で使用される面などの展示もあり、なかなか興味深い品々が数多く見られます。

なお、2014年より「酒-1グランプリ」なる最も愛された日本酒を決めるイベントが開催されているそうです。

松尾大社 酒-1グランプリ 公式ページ

神像館・松風苑

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松尾大社の神像館(しんぞうかん)・松風苑(しょうふうえん)です(有料)。

神像館には数多くの神像と写真が展示されており、松風苑には以下の3種類の日本庭園があります。

【神像館・松風苑 概要】

庭園の種類


・上古の庭:上古風に磐座を模した庭園

・蓬莱の庭:鎌倉時代風に蓬莱島を模した庭園
・曲水の庭:平安時代風に清流が流れる様を模した庭園

拝観時間・料金


・平日(土曜):9:00~16:00
・日曜(祝日):9:00~16:30
・入園料(入館料):大人500円、学生400円、子供300円

楼門

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松尾大社の楼門(ろうもん)です。

江戸中期に建立されたものであり、入母屋造檜皮葺(いりもやづくりひわだぶき)という仕様になっています。

舞殿

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松尾大社の舞殿です。

大祓式のほか各種神事に使用される施設であり、楼門と同様に入母屋造檜皮葺という仕様となっています。

拝殿

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松尾大社の拝殿です。

奥の本殿に控える主祭神に参拝するための施設であり、楼門と同様に入母屋造檜皮葺という仕様となっています。

なお、本殿は「両流造」とも「松尾造」とも称される独特の造りであるとされています。

亀の手水舎

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松尾大社の手水舎(ちょうずや)です。

松尾大社の神使である亀の像が設置されており、その口から水が出るような仕様になっています。

亀と鯉の像

人文研究見聞録:松尾大社 [京都府]

松尾大社の亀と鯉の像です。庭園の受付付近に設置されています。

松尾大社では「」と「」を神使としているため、このような像は数多く設置されています。

撫で亀さん

人文研究見聞録:松尾大社 [京都府]
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松尾大社の撫で亀さん(なでかめさん)です。

松尾大社の神使の「」は「健康長寿」のシンボルとして親しまれてきたそうです。

そのため、この亀像を撫でることで その霊威にあやかり、御利益を受けることができるそうです。

幸運の撫で亀

人文研究見聞録:松尾大社 [京都府]
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松尾大社の幸運の撫で亀(こううんのなでかめ)です。

長寿長久・家庭円満に御利益があるとされ、撫でることで その御利益を受けることができるそうです。

幸運の双鯉

人文研究見聞録:松尾大社 [京都府]
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松尾大社の幸運の双鯉(こううんのそうり)です。

恋愛成就・夫婦円満・立身出世に御利益があるとされ、撫でることで その御利益を受けることができるそうです。


重軽の石

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松尾大社の重軽の石(おもかるのいし)です。

石の重さで祈願成就を占うというものであり、松尾大社の他の寺社でも多く見られる占いの一種です。

一度持ち上げてから祈願をし、もう一度持ち上げて、軽ければ成就が近く、重ければ縁遠いとされています。

相生の松

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松尾大社の相生の松(あいおいのまつ)です。

樹齢330以上の古木であり、恋愛成就・夫婦和合の霊験があるとされています。

しゃもじ形の絵馬

人文研究見聞録:松尾大社 [京都府]

松尾大社の絵馬しゃもじ形になっています。

しゃもじ形の絵馬と言えば、広島県の宮島の厳島神社が有名です。

そこでは弁財天の持つ琵琶がしゃもじの形に似ていることから、絵馬がしゃもじ形になったとされています。

弁財天は、神道で言えば市杵島姫命(イチキシマヒメ)に当たり、厳島神社の祭神の一柱となっています。

また、松尾大社の主祭神ともされていることから、それに因んで絵馬がしゃもじ形になったものと思われます。

伊勢神宮遥拝所

人文研究見聞録:松尾大社 [京都府]

松尾大社の伊勢神宮遥拝所(いせじんぐうようはいじょ)です。

伊勢神宮を拝むために用意されている場所であり、磐境で囲まれた神域の中に若木が植えられています。

磐座登拝道

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磐座登拝道入口
人文研究見聞録:松尾大社 [京都府]
祓戸社

松尾大社の磐座登拝道(いわくらとうはいどう)です。

松尾山に登って山上の磐座に参拝するための山道であり、有料で入ることができます。「一人では入山不可」などの数多くの禁止事項が設けられており、入山の条件が結構厳しいです(下記に記載)。

なお、入山の際には、入口に鎮座する祓戸社(祓戸大神を祀る社)にて お祓いを受けるそうです。また、山上の磐座は撮影禁止とされていますが、公式サイトから見ることできます。

松尾山の磐座(公式サイト)

【松尾山 入山要綱】

登拝受付

・入山:9:00~15:00まで
・下山:16:00までに下山すること

登拝初穂料

・1名につき1,000円(2回目からは1名につき500円)

入山登拝禁止日

・1/1~3、4/2、4/20以降の神幸祭当日、5月還幸祭当日、7月第3日曜日、9月第1日曜日、12/31
・そのほか、天候などによっては入山不可

磐座登拝の遵守事項

・一人での登拝は禁止
・お祓いの後、磐座登拝証を携帯の上、敬虔な気持ちを持って登拝すること
・登拝口以外よりの入山、下山は一切禁止
・登拝道以外の脇道の侵入禁止
・三時間以上の入山禁止
・タバコ、ローソクなどの火器の持ち込み禁止(火器厳禁)
・カメラ、ビデオなどの撮影機器の持ち込み禁止(撮影禁止)
・携帯電話の持ち込みは許可するが、カメラ付き携帯の場合は撮影の有無を報告すること
・山にある草木、キノコ、鳥獣、土器類を取らないこと
・供物の持参禁止
・飲食物の持参禁止
・害虫や落石などの被害に十分注意すること
・松尾山を汚さないこと

料金: 基本無料(庭園、宝物館、磐座登拝は有料)
住所: 京都府京都市西京区嵐山宮町3(マップ
営業: 終日開放
交通: 松尾大社駅(徒歩4分)

公式サイト: http://www.matsunoo.or.jp/index-1/index.html
matapon
著者: matapon Twitter
「日本神話」を研究しながら日本全国を旅しています。旅先で発見した文化や歴史にまつわる情報をブログ記事まとめて紹介していきたいと思っています。少しでも読者の方々の参考になれば幸いです。