人文研究見聞録:大将軍八神社(大将軍さん) [京都府]

京都府京都市上京区にある大将軍八神社(だいしょうぐんはちじんじゃ)です。

平安京の方除の守護社として創建された神社であり、当初は陰陽道における八将神を祀っていたとされます。

なお、明治以降は国家神道の影響で神道の神と習合し、現在はスサノオと八柱の御子神が主祭神となっています。

また、現在はモノノケ市(妖怪グッズのフリーマーケット)の主な会場となっていることでも知られています。


神社概要

由緒

由緒書によれば、平安遷都の際に御所の北西にあたる天門(戌亥の方位)に陰陽道における方位神(星神)を祀る「大将軍堂」を建て、 都城の方除けの守護神として造営されたことに始まるとされ、江戸時代に「大将軍社」と改称し、さらに明治時代に「大将軍八神社」と改称して現在に至るとされています。

なお、「大将軍(だいしょうぐん)」とは、陰陽道でいう方位の吉凶を司る神であり、建築、旅行、移動の際の方除け・厄除けに神徳があるとされたことから、庶民をはじめ、権力者らの崇敬を集めていたそうです。

また、創建から江戸時代までは「大将軍」のみを祀っていたとされますが、明治時代に発布された神仏分離令の影響を受けて、祭神が素盞嗚尊(スサノオ)に改められることになったんだそうです。

素戔嗚尊(スサノオ)が祭神になった理由として、大将軍堂が1340年からの約100年間、現在の八坂神社の管理下にあり、八坂神社の祭神である素盞鳴尊と、大将軍の神格が似通っている事から関連付けられたとされています。

陰陽道についてはこちらの記事を参照:【陰陽道とは?】

祭神

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大将軍
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太歳神
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大陰神
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歳刑神
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歳破神
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歳殺神
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黄幡神
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豹尾神

大将軍八神社の祭神は以下の通りです。

主祭神

・大将軍(だいしょうぐん):金曜星(太白)の神格を持ち、3年同じ方位に留まり、座す方角は万事に大凶とされる
 → 当社では、素戔鳴尊(スサノオ)と習合して祀られる
  ⇒ 大将軍は牛頭天王の息子とされ、スサノオと同一視された(後に牛頭天王はスサノオと習合した)
 → 『ホツマツタヱ』には八将神に当たるヤマサ神がおり、大将軍と思われるウツロヰという神が登場する
・御子神八柱:陰陽道の神で方位の吉凶を司る八神の総称
 → 太歳神(たいさいしん):木曜星(歳星)の神格を持ち、移転普請は吉、訴訟・伐木は凶とされる
  ⇒ 天忍穂耳命(アメノオシホミミ)と習合して祀られる
 → 大陰神(たいおんじん):土曜星(塡星)の神格を持ち、縁談出産は凶とされる
  ⇒ 市杵嶋姫命(イチキシマヒメ)と習合して祀られる
 → 歳刑神(さいぎょうしん):水曜星(辰星)の神格を持ち、耕作は凶とされる
  ⇒ 田心媛命(タゴリビメ)と習合して祀られる
 → 歳破神(さいはしん):土曜星(塡星)の神格を持ち、移転旅行は凶とされる
  ⇒ 湍津姫命(タギツヒメ)と習合して祀られる
 → 歳殺神(さいせつしん):金曜星(太白)または火曜星(熒惑星)の神格を持ち、縁談に凶、仏事には吉とされる
  ⇒ 天穂日神(アメノホヒ)と習合して祀られる
 → 黄幡神(おうはんじん):羅睺星の神格を持ち、武芸に吉、移転普請は凶とされる
  ⇒ 活津彦根神(イクツヒコネ)と習合して祀られる
 → 豹尾神(ひょうびしん):計都星の神格を持ち、豹のように猛々しく、家畜を求めること・大小便に凶とされる
  ⇒ 熊野櫲樟日命(クマノクスビ)と習合して祀られる

境内社

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五社
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三社
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大金神神社・歳徳神社
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地主神社

大将軍八神社の境内社は以下の通りです。

【五社】

・恵比寿神社
・稲荷神社
・天満宮
・長者神社
・金毘羅神社

【三社】

・命婦神社
・厳島神社
・猿田彦神社
・大金神神社

【その他】

・歳徳神社
・地主神社(大杉大明神)

大将軍について

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大将軍神半跏像

大将軍(だいしょうぐん)とは陰陽道における方位神の一つであり、以下のような特徴があるとされています。

大将軍(方位神)の特徴

・古代中国では金星(太白星)に関連し、軍事を司る星神とされた
・古代中国の思想が日本の陰陽道に取り入れられ、太白神・金神・大将軍という方位神となった
・陰陽道における方位神は八将軍と呼ばれる八神であり、大将軍は その一つとされる
・大将軍の金気(ごんき、五行説における金の気)は刃物に通じるとされる
・荒ぶる神として、特に暦や方位の面で恐れられた
・3年毎に居を変えるとされ、大将軍の座す角は万事に凶とされた(特に土を動かすことが良くないとされた)
・大将軍の座す方角は3年間変わらないとされ、その方角を忌むことを「三年塞がり」と呼んだ
・大将軍には5日間の遊行日(ゆぎょうび)が定められており、その間は凶事が無いとされた

なお、古代中国の思想を取り入れたとされますが、『ホツマツタヱ』という文献には自然災害から人の衣・食・住を守護する「ヤマサカミ」と呼ばれる神が存在しており、その一つに「ウツロヰ」という神が登場します。

この「ウツロヰ」は空を司る神とされ、雷を統べ、土に空を通して粗金を生みだし、東北(鬼門とされる艮の方角)の柳の一木を社として この方角を守り、ヱト(暦における年と日の60パターン)の空白となる5日間を補い守るとされています。

このような特徴が上記の大将軍と類似するため、個人的には日本に既に存在していた思想であるではないかとも考えています。

境内の見どころ

鳥居・神門

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大将軍八神社の鳥居神門です。

方位のオブジェ

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大将軍八神社の本殿前には、陰陽道に関わりの深い方位のオブジェが置かれています。

本殿

人文研究見聞録:大将軍八神社(大将軍さん) [京都府]

大将軍八神社の本殿です。

方徳殿


大将軍八神社の「方徳殿(ほうとくでん)」です。

本殿の裏手にあり、木造の大将軍神像 80体と、陰陽師で知られる安倍家の古天文暦道資料が収蔵されています。

入場料は500円で、毎年5月1~5日と11月1~5日の間に一般公開されているそうです(その他の日は予約制)。

謎の錨

人文研究見聞録:大将軍八神社(大将軍さん)

大将軍八神社にある「謎の錨(いかり)」です。

この錨は、一説によると「宝物庫に収蔵されている宝船の絵には碇が描かれており、普通は碇を描くことはないため、非常に珍しい絵である」ということに因んで、後に寄贈されたものなんだそうです。

なお、この説はネット上で発見したものであり、その宝船の絵や寄贈した人物については定かではありません。分かり次第追記したいと思います。

ちなみに、上記の説におけるイカリは「」となっていますが、この漢字が定義するイカリは日本古来の和船に用いられた「4本爪のイカリ」を指し、寄贈されたイカリは洋式船に用いられた「2本爪イカリ」であることから、「」の表記が適当だと思われます。

フリーマーケット

人文研究見聞録:大将軍八神社(大将軍さん) [京都府]

大将軍八神社の境内では、様々なジャンルのフリーマーケットがたびたび催されているらしく、今回は妖怪アートフリマ「モノノケ市」なるイベントが開催されていました。

このイベントは、平安時代、捨てられた古道具たちが妖怪に変化し、夜の都大路を大行列したという「百鬼夜行」の伝説にちなんで、神社周辺の大将軍商店街によって開催されている地域振興イベントの一つであり、年間に数回行われているようです。

なお、「モノノケ市」では、妖怪をテーマにした様々な手造りグッズが販売されており、多様な妖怪コスプレも行われています。妖怪ブームの昨今、こうしたイベントを通して妖怪について学んでみるのも面白いかもしれませんね。

また、大将軍商店街は現在「妖怪ストリート」と呼ばれており、妖怪をテーマにした様々なまちおこし活動で人気を博しているんだそうです。そのため、妖怪をテーマにした様々なイベントや賞金付きのコンテストも公募しているようです(詳しくは下記URLの情報をご覧ください)。

料金: 無料(方徳殿500円)
住所: 京都府京都市上京区一条通御前通西入3丁目西町55(マップ
営業: 9:00~17:00、無休
交通: 円町駅(徒歩17分)

公式サイト: http://www.daishogun.or.jp/
妖怪ストリート公式: http://www.kyotohyakki.com/index.html
matapon
著者: matapon Twitter
「日本神話」を研究しながら日本全国を旅しています。旅先で発見した文化や歴史にまつわる情報をブログ記事まとめて紹介していきたいと思っています。少しでも読者の方々の参考になれば幸いです。