人文研究見聞録:酒船石遺跡(亀形石造物) [奈良県]

奈良県の明日香村にある酒船石遺跡(さかふねいしいせき)です。

飛鳥地方の謎の石造物の一つである酒船石に、近年発掘された周辺の遺構を含めた遺跡となっています。

なお、これらの遺構は『日本書紀』の斉明天皇条に記される記録と関連性が深いと推定されているそうです。


酒船石遺跡について

概要

酒船石遺跡とは、飛鳥の石造物として知られる"酒船石"に、平成12年(2000年)の発掘で発見された"亀形石造物""小判形石造物"などの周辺の遺構を加えた遺跡のことを指します(ただし、酒船石との関連性は疑問視されている)。

なお、『日本書紀』斉明天皇条に「斉明天皇2年(656年)9月、田身嶺(多武峰)の山頂の周囲に垣を巡らせ、峰の上に両槻宮を建てた。また、天皇は興事(土木事業)を好んでおり、香久山の西から石上山まで溝を掘って舟で石を運んで石垣を巡らせた。渠の造るのに3万余人、垣の造るのに7万余人を要し、これによって宮材が使えなくなったことから、時の人はこれを"狂心の渠(狂った水路)"と呼び非難したという」という記事があり、酒船石遺跡はこの記事に見られる工事の跡であり、両槻宮の一部、あるいは両槻宮への入り口施設と推定されているそうです。

酒船石とは?

人文研究見聞録:酒船石遺跡(亀形石造物) [奈良県]
岡の酒船石
人文研究見聞録:酒船石遺跡(亀形石造物) [奈良県]
出水酒船石

酒船石(さかふねいし)とは、亀形石造物の南に位置する小高い丘上に安置されている謎の石造物であり、石の表面に奇妙な溝が彫られていることが特徴となっています。

建造時期や用途についての具体的な説は無く、未だに謎に包まれた石造物であるとされていますが、上記の『日本書紀』の斉明天皇2年の条にある記述から、一部では亀形石造物・小判形石造物などの周辺の遺構と連なる水路の一部であったと推定されているようです(飛鳥資料館の庭園に水路を再現したレプリカがある)。

なお、酒船石遺跡から やや離れた飛鳥川畔では2つの謎の石造物が見つかっており、これも酒船石と名付けられています。この石造物も水路の一部を成す石造物であったとする説があり、上記の丘上にあるものを"岡の酒船石"、飛鳥川畔で発見されたものを"出水酒船石"と呼んで区別することもあるとされています。

詳しくはこちらの記事を参照:【酒船石】

有料エリアについて

人文研究見聞録:酒船石遺跡(亀形石造物) [奈良県]

この記事で紹介する亀形石造物・小判形石造物をはじめとする遺跡群の見学は有料となっており、遺跡内に入るには大人300円、子供100円の費用が必要になります。

ただし、上記の酒船石については、亀形石造物などの遺跡群からはやや離れた位置に安置されているため、無料で見学することができます。

小判形石造物

小判形石造物の概要

人文研究見聞録:酒船石遺跡(亀形石造物) [奈良県]

小判形石造物(こばんがたせきぞうぶつ)とは、砂岩湧水施設から流れ出る水を溜めておくための水槽の役割を持つ小判形の石造物のことを指し、水路から流れ出る水を受け、それを亀形石造物の顔の部分から流すような形で設置されています。

小判形石造物のスペック

小判形石造物のサイズ・特徴は以下の通りです。

【サイズスペック】

・長さ: 1.65m
・横幅: 1m
・深さ: 20cm

【特徴】

・楕円形である
・形は和式の便器に似ている
・エッジやカーブの部分は かなりキレイに成形されている

亀形石造物

亀形石造物の概要

人文研究見聞録:酒船石遺跡(亀形石造物) [奈良県]

亀形石造物(かめがたせきぞうぶつ)とは、亀をモチーフとした装飾が施された石造物です。

小判形石造物に連なる形で設置され、そこから流れ出た水が頭部を伝わって甲羅のくぼみに溜まり、尻尾の部分から抜け出るような構造になっています。尻尾に栓をすることで水を溜めることもできるようです。

なお、遺跡の案内板では以下のように説明されています。

亀形石造物

酒船石遺跡は『日本書紀』斉明天皇2年の条に記載のある「宮の東の山の石垣」に当たる遺跡である。平成12年に行った発掘調査で、亀形石槽を中心とした導水施設をはじめ石敷き・石垣・石段が発見された。

湧水施設から流れ出た水は木樋(もくひ)を伝って舟形石槽(小判形石造物)の水槽に溜まり、さらに小穴から流れ出た少量の水が亀の鼻に入り、背中の水槽に溜まる構造になっている。

周囲を石垣や石敷で閉ざされた空間であることや、水の流れを見て楽しむ構造でないことから、天皇祭祀にかかわる場所であったと推定される。

亀形石造物のスペック

亀形石造物のサイズ・材質・特徴は以下の通りです。

【サイズスペック】

・全長: 約2.4m
・横幅: 約2m
・甲羅直径: 1.25m
・甲羅深さ: 20cm
・材質: 花崗岩

【特徴】

・亀を模した造形となっている(スッポンを模したという意見もある)
・甲羅部に水を貯められる構造になっている
・平安期まで使用されていた痕跡が見られることから、何らかの祭祀に使われたと推定される

その他の遺構

石垣

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酒船石遺跡にある石垣です。

これは『日本書紀』の斉明天皇2年の条にある"飛鳥時代の土木工事"の痕跡であるとされ、発掘時に倒壊していた石垣の一部を復元したものであるとされています。

なお、遺跡の案内板では以下のように説明されています。

酒船石遺跡

この石垣は平成4年(1992年)に発見された。

調査の結果、この丘は版築状に3メートルほど盛土された人工の丘陵で、石垣は明日香産の花崗岩を地覆石状に並べて基礎とし、その上に天理市から奈良市にかけて分布する凝灰岩質細粒砂岩の切石を積み上げて築かれていた。現在、倒壊していた石垣の一部を復元して公開している。

酒船石遺跡は『日本書紀』斉明天皇条の「宮の東の山に石を累ねて垣とす」「石の山丘を作る」という記事に該当する遺跡である可能性が高く、その解明は、後飛鳥岡本宮など飛鳥諸宮跡の所在地を確定する上でも極めて重要である。

明日香村教育委員会が平成5年度から この丘陵周辺で範囲確認調査を機械的に実施して、酒船石を含めた全容の解明に努めており、石垣が数段にわたって丘陵を取り巻く状況を確認するなどの成果を上げてきている。

酒船石遺跡ギャラリー

酒船石遺跡の様子をギャラリー形式で紹介します。

人文研究見聞録:酒船石遺跡(亀形石造物) [奈良県]
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人文研究見聞録:酒船石遺跡(亀形石造物) [奈良県]

料金: 大人300円、子供100円
住所: 奈良県高市郡明日香村岡(マップ
営業: 8:30~17:00、年末年始休業(荒天の場合は閉場の可能性あり)
交通: 橿原神宮前駅(徒歩44分、バスまたはレンタサイクル推奨)
matapon
著者: matapon Twitter
「日本神話」を研究しながら日本全国を旅しています。旅先で発見した文化や歴史にまつわる情報をブログ記事まとめて紹介していきたいと思っています。少しでも読者の方々の参考になれば幸いです。